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研究内容

Research Introduction

研究テーマ

生体親和性に優れた診断・治療用ソフトバイオマテリアルの設計

研究の背景

高分子ソフトバイオマテリアルは、高齢社会において重要な役割を担っています。生体親和性高分子は、診断・治療用の医療製品開発のブレークスルーのために必須です。高分子ソフトバイオマテリアルと水・イオン・タンパク質・微生物・細胞などの生体成分の相互作用の分子レベルでの理解と制御が、医療製品開発の最重要項目です。

研究内容

高分子ソフトバイオマテリアルの生体親和性発現機構を分子レベルで理解するために、材料と生体成分が接触する環境に存在する水分子に着目し、中間水コンセプトを提案しています。

中間水コンセプト

医療機器と生体の接触界面で何が起きているのか?

医療機器を構成する材料に血液や組織液などが接触すると、水分子が材料表面に直ちに吸着し、飽和含水状態になります。ついで、血液中に存在するタンパク質が吸着、変性し、これにより生体防御系の活性化が起き、血栓形成などが引き起こされます。したがって、材料に吸着した水分子の状態が医療機器の性能に大きな影響を与えると考えられます。また、生体の恒常性を巧みに維持している生命現象の反応場の観点から水分子に着目すると、この水分子はタンパク質や細胞の接着や機能発現の場を形成しています。

製品が使用される環境:含水した高分子材料の水和状態

材料に吸着した水の構造の評価法として、核磁気共鳴法、誘電緩和法、振動分光法(赤外、ラマン、和周波発生)、示差走査熱量法、X線回折法、中性子散乱法などが知られています。これらの手法により、材料に吸着した水分子の構造を3種類(自由水、中間水、不凍水)に分類することができます。とりわけ、自由水と不凍水の中間の物性を示す中間水は、高い分子運動性を有する高分子鎖に弱く束縛され、低温下でも分子運動性の高い水であり、高分子表面にも安定に存在することが示されました。また、中間水は、生体高分子と生体親和性合成高分子に共通して観測されることがわかりました。

中間水コンセプトによる生体親和性材料の設計

我々は、高分子材料由来の異物反応の引き金になるタンパク質の吸着と変性が、中間水の量によって制御できることを見出しました。この中間水の量は高分子の化学構造により変化し、高分子側鎖の構造、側鎖間隔により精密に制御できます。材料に水が吸着した吸水状態に着目した生体親和性の新しい考え方をどのように生体内埋め込み型デバイスの臨床へつなぐことができるのか?本研究室では、医工産学連携体制で研究開発を進めています。

生体接触面における有機デバイスの最表面の模式図:バイオ界面水構造に着目した有機デバイス表面設計

   

この中間水コンセプトをベースにして、
1)バイオ界面における水和状態に着目した生体親和性発現機構の解明
2)次世代の予防、診断、治療技術を支える生体親和性材料の分子設計指針の創成と精密有機・高分子合成
3)正常細胞、幹細胞、癌細胞の接着や機能を選択的に制御できる新材料の臨機応用
4)産学連携・国際共同研究による新材料の社会実装に取り組んでいます。
これにより健康長寿社会の構築に貢献します。

中間水コンセプトの詳細はこちら高分子, 63, 542-545, (2014))を参照ください。

第51回2018年度 市村学術賞 功績賞を田中教授が受賞しました。詳細はこちらをご覧ください。

そのために行っている研究は大きく3つのグループに分けられます。
 ・高分子設計・合成・機能制御
 ・バイオ界面の構造・物性解析
 ・細胞-材料間 相互作用解析
それぞれの研究内容の詳細は以下をご覧ください。

高分子設計・合成・機能制御

  • 合成技術-生体親和性高分子の設計・合成・機能制御-」の拡大版はこちら

ヒトの体はタンパク質、核酸、多糖類などで構成された生体高分子複合体であり、例えば酵素などが示す極めて高い機能は、厳密に制御されたアミノ酸配列に基づく高次構造の発現と、分子内/分子間の特異的/非特異的相互作用の制御によって達成されています。
同様に、合成高分子の物理的性質や生体親和性もまた、その化学構造の特徴を色濃く反映しています。そこで本研究室では、高分子の化学構造を厳密に制御しうる様々な有機化学的手法を用いて構造の明確な高分子を合成し、これを用いた化学構造・物理物性-水和状態-生体親和性の関係の理解を目指して研究を行っています。高分子構造の設計・制御という有機化学的な手法を通じて、よりよい生体親和性材料の開発を達成し、医療の発展に貢献することが最終目標です。

バイオ表面の構造・物性解析

  • 解析技術-生体親和性高分子界面の構造・物性解析-」の拡大版はこちら


「生体親和性高分子の機能は何が決めるか?」を解明するために、生体親和性高分子界面の精密解析や、高分子界面への水やタンパク質の吸着挙動の解析を行っています。また「中間水とはどんな水か?」の疑問に答えるために、SPring-8やJ-PARCといった外部施設を利用して、ラボレベルでは難しい高分解能測定にも取り組んでいます。

細胞-材料間 相互作用解析

  • 細胞制御技術-細胞と生体親和性高分子間相互作用解析-」の拡大版はこちら

生体分子に結合している水分子の役割の解明を目指して研究を進めています。この知見を基に、自然界に存在する分子を超えた機能性高分子を設計、開発しています。また、細胞と生体親和性高分子の間の相互作用を制御することにより、細胞接着、細胞挙動を制御し、早期がん診断技術や再生医療への応用を目指して研究を行っています。

Challenges for Biomaterials Design and Applications to Accelerating Healthcare Innovation